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2016/03/17

高校生の政治活動の「届出制」は、主権者意識を育むどころか、政治離れを加速する

今朝の朝日新聞では、愛媛県のすべての県立高校で、高校生の政治活動について届け出制を行うことが1面トップで掲載されました。

<政治活動届け出を校則化 愛媛の全県立高、県教委が例示>
1面
http://digital.asahi.com/articles/ASJ3C3PWWJ3CUTIL00C.html

<「学業への支障、防ぐ」 愛媛県立高、政治活動「届け出」校則>
38面
http://digital.asahi.com/articles/DA3S12259519.html


テレビニュースでも取り上げられています。
<愛媛県 高校生の“政治活動”届け出義務に 日テレNEWS24>
http://www.news24.jp/articles/2016/03/16/07324948.html


朝日新聞の記事では、以下の私のコメントも掲載されました。
---
■<考論>主権者教育に逆行

林大介・東洋大助教(政治学)

どの政治団体の活動に参加するかは思想・良心に関わる問題で、学校に伝えづらい生徒もいるだろう。例えば、届け出制があるために、生徒が選挙演説会や公開討論会を聴きに行くのをためらわないか。生徒自身が政治や社会について考える機会を学校が奪うことになり、主権者教育の充実の流れに逆行しかねない。また、校外活動について、保護者はともかく、学校が細かく把握する必要があるのか疑問だ。
---

高校の校則に〈高校生の政治活動の届け出〉を明記する方針という愛媛県教育委員会ですが、このような方針は、高校生の活動を萎縮させ主権者教育の推進に逆行することです。

そして38面を見ますと、
<届け出を要する事項として「海外旅行」「地域行事への参加、キャンプ・登山等」などのほかに、「選挙運動や政治的活動への参加」を入れた。「1週間前に保護者の許可を得てホームルーム担任に届け出る」とした。>
とあります。

「選挙運動や政治的活動への参加」だけではなく、「海外旅行」「地域行事への参加、キャンプ・登山等」なども事前に届け出ることになっています。

子ども会の行事を手伝ったり、ボランティア活動をしたり、地域の祭りに参加したり、ライブに行ったり、、、
そんなことまで、すべて学校に届け出なければいけないのが愛媛県のようです。

しかも、「海外旅行」「地域行事への参加、キャンプ・登山等」の届け出については、今回、新たに加わったものではなく、これまでも行われていたとのことです。

<ある県立高校の教頭は「記録に残る文書ではなく口頭での届け出にするなど、生徒を萎縮させない工夫は可能」と話す。>

上記のテレビニュースによると、県立今治西高校の教頭先生のコメントのようですが、「口頭での届け出」というのは、むしろ、現場の先生を悩ませるのではないでしょうか。

「言った」「聞いてない」と必ずなります。

となると、聞いた側の先生は、結局は記録を残すようになります。


広島の中学生の自殺もそうですが、何でもかんでも学校が把握=管理という風潮を感じます。

今回の届け出についても、「あの生徒は政治活動に○○回参加していた」といった記録が、入試の書類や、就職関係の書類に記載されるおそれがあります(成績には反映させないので教員を信じろ、と言うコメントもありそうですが、はたして、そのようなコメントを真に受けることができるのでしょうか・・・?)


日本国憲法では、今さら言うまでもなく、
 ・基本的人権の享有(11条)
 ・個人の尊重・幸福追求権・公共の福祉(13条)
 ・思想・良心の自由(19条)
 ・信教の自由(20条)
 ・集会の自由、結社の自由、表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密保障(21条)
 ・勤労の権利及び義務、勤労条件の基準、児童酷使の禁止(27条)
といったことが定められています。

別の記事で、「サンクスバイトの高校生、ブラック職場に対抗し労働協約」というのがありましたが、アルバイトをしている高校生が労働組合に入ることも、わざわざ1週間前に高校に届け出なくてはいけないのでしょうか。

あるいは、自分が信仰している宗教団体が、地域清掃や募金活動を行ったり、被災地でボランティア活動などを行う際にも事前届け出が必要となると、それこそ信仰の自由を侵すことにもつながります。


また、日本政府が1994年に批准した国連子どもの権利条約には、以下の条文があります。

・意見を表明する権利(第十二条)
締約国は、児童が自由に自己の意見を表明する権利を確保する。児童の意見は、その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮される。

・表現の自由についての権利(第十三条)
児童は、表現の自由についての権利を有する。

・思想、良心及び宗教の自由についての権利(第十四条)
締約国は、思想、良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重する。

・結社及び集会の自由についての権利(第十五条)
締約国は、結社の自由及び平和的な集会の自由についての児童の権利を認める。

そして、条約締約国は5年に一度、国連に対して「報告」をする義務がありますが、その「報告」に対して日本政府は、以下のような勧告を受けています。

*国連児童の権利委員会「第2回政府報告書審査」 2004年2月26日
    ※児童の権利委員会 第35回会期 2004年2月
・4.市民権及び自由
表現及び集会の自由
29.委員会は、学校の内外で児童により行われる政治活動への制限について懸念する。委員会はまた、18歳未満の児童が集会に参加する際に両親の同意を必要とする点についても懸念する。
30.委員会は、締約国に対し、条約第 13、14、15 条の完全な実施を確保するため、学校内外で児童により行われる活動を制限する法律及び規則及び集会への参加について親の同意を必要とすることを再検証することを勧告

*国連児童の権利委員会「第3回政府報告書審査」 2010年6月20日
  ※児童の権利委員会 第54回会期 2010年5月25日-6月11日
・児童の意見の尊重
43. 裁判及び行政手続,学校,児童関連施設,家庭において,児童の意見が考慮されているとの締約国からの情報に留意するが,委員会は,公的な規則が高い年齢制限を設定していること,児童相談所を含む児童福祉サービスが児童の意見にほとんど重きを置いていないこと,学校が児童の意見を尊重する分野を制限していること,政策立案過程において児童が有するあらゆる側面及び児童の意見が配慮されることがほとんどないことに対し,引き続き懸念を有する。委員会は,児童を,権利を有する人間として尊重しない伝統的な価値観により,児童の意見の尊重が著しく制限されていることを引き続き懸念する。

44. 条約第12条及び児童の意見の尊重に関する委員会の一般的意見No.12(2009年)に照らし,委員会は,児童が,学校,その他の児童関連施設,家庭,地域社会,裁判所,行政組織,政策立案過程を含むあらゆる状況において自らに影響を与えるあらゆる事柄について意見を十分に表明する権利を促進するための取組を締約国が強化するよう勧告する。

※これら、国連子どもの権利委員会による勧告および政府報告書全文は、外務省のウェブサイトで確認できます
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/


そもそも、放課後や土日休日の行動を、学校が把握する必要性は何なのでしょうか。
学校外の生活については、一義的には保護者に監督責任があり、学校がアレコレ把握=管理する必要性はありません。

今回の、愛媛県教育委員会の判断は、18歳選挙権の趣旨を履き違えており、主権者を育てるどころか、子ども世代の政治離れをより加速する方向でしかありません。


ただ、教育委員会や学校が、このような判断をとらざるを得ない状況にあるということも、理解できなくはありません。

それは、教員が放課後にゲームセンターや繁華街を見回ったり、生徒が万引きしたり、あるいは夜に公園などで騒いでいたりすると学校に連絡が入り、教師が謝罪する、ということが、今もって存在しているからです。

地域の方も、生徒の保護者に対してではなく、学校に対して「学校ではどんな教育をしているんだ!」とクレームを入れることがあるからです。

ある意味、学校が、生徒にとって生活の場であり、躾の場であったりするからです。
(「子どもの貧困」を背景に、「学校が子どもを救う最前線になっている」のも事実です)


とはいえ、何でもかんでも学校任せにするのはおかしな話です。

もっと地域が子どもを受け入れ、地域の中で育てていく環境を整えることが大事だと思います。


学校や教育委員会批判をするのは簡単ですが、それだけで解決できるものではありません。

私たち一人ひとりの市民が、地域の一員として、きちんと子どもと向き合うことが、18歳選挙権時代の今だからこそ、求められています。

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